松の盆栽

松浦 貴昌のパーソナルブログ

組織・チームが新しい変革を実現し、生産性を高めるために必要なこと

今回は、主に組織やチームの中でマネジメントやリードする立場の方向けの記事です。(そして、少し長いです)

さて、今回のお題の「新しい変革と生産性向上」に必要なことを結論から先に言いますと、「多様な組織・チームの関係性を高めて、外から知を持ち寄り、直接の対話で深めていけば、生産性を高まり、イノベーションは生まれやすくなる」ということになるかと思います。

これだけだと、「そんなこと、知ってるし」となると思います。ですが、知ってはいても、実際に実行し、結果を出すことが本当に難しいことを、どなたも実感されているのではないでしょうか。

今回の記事は、いつもの如く自分の備忘録のためですが、最新の研究データなどを書籍から引用していますので、これまで当たり前に思っていたことをさらに深め、応用するのに役に立つかと思います。

【個人】の能力や専門性を高めることには皆さん興味あるところだと思いますが、今回の記事をきっかけに【チーム】の関係性やコミュニケーションに目を向けてもらえると嬉しいなぁと思っています。

 

個人か、チーム(集団)か?

組織やチームのパフォーマンスを語るうえで、一緒に議論にあがりやすいのが「個人のパフォーマンス」だと思います。単純に言ってしまえば、「個人の能力が高まれば、組織全体のパフォーマンスも高まるのではないか」と。また、「能力の高い個人を採用すればいい」と。

それもそうなのですが、スーパーマン的な人を採用することや、スーパーマンに育成するのは本当に困難です。また、スーパーマン的な人だけ集めてもうまくいくとは限りません。

その点で、今回は、多くの企業や団体、個人にとっても、とても希望のある話です。

まずは、チーム(集団)と個人を対比させた研究事例を見てみたいと思います。

サイエンス誌に掲載された論文における重要な結論は、「集団は集団的知性を持つ」というものである。そしてその集団的知性は、個々の構成員が持つ知性とはほとんど関係ない。個人の能力よりも優れた、集団で問題を解決するという能力は、個人の間のつながりから生まれる。特に皆から多様なアイデアを引き出し、共有を促す交流のパターンと、アイデアを精査してふるい分け、合意を形成するプロセスがその中核となる。

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.11

 

ケロッグ経営大学院の経営戦略論教授ベン・ジョーンズと研究チームは、過去50年に発表された科学研究文献のデータベースを大々的に調査した。
<中略>
複数の科学者から成る研究チームが書いた論文では、個人の論文よりも、常套性はもとより、新規性を含む要素が盛り込まれている率が40%も高いことが判明した。単純に言えば、チームで取り組んだほうが、革新的で新しいアイディアが生まれやすいということだ。

リッチ・カールガード他(2016)『超チーム力』p.122

 

50万以上の特許を調べた結果、個人-とりわけ組織に属さない研究者-が出願した特許には、概して影響力が小さい発明が多いことがわかったのだ。個人の発明家は悪いアイディアを効率的に間引くことが苦手であり、共同作業のほうが"組み合わせ"の機会が増えるため、新規性を生み出しやすい土壌ができることもわかった。

リッチ・カールガード他(2016)『超チーム力』p.123

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と、まぁ、やはりチームや集団ってすごいよね、と再度思っていただいたところで、ざっくり言うと「組織やチームにおいて、“関係性”って大事よね」というところから入りたいと思います。

 

「結果」ではなく「関係性」の「組織の成功循環モデル」

これをわかりやすく伝えているのが、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」です。組織が成功するためには、良いサイクルを回す必要があるのですが、まずは、悪いサイクルのほうから紹介したいと思います。

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 悪いサイクルは、「結果の質」を求めるところからスタートします。成果・結果がなかなか上がらないと、対立が生じ、押し付け、命令・指示が増えて「関係の質(関係性の質)」が低下していきます。そうすると、命令やプレッシャーを受けるので、創造的思考がなくなり、受け身で聞くだけになっていき「思考の質」が低下してきます。当事者意識はなくなり、自発的・積極的に行動しないので、「行動の質」が低下。行動が伴わなければ、さらに成果が上がらず、「結果の質」は低下。関係性はどんどん悪化・・・・。というサイクルです。

結果から入ったばかりに、悪循環に陥って、突破口が見いだせず八方ふさがり。こういった例は世の中にたくさんあると思っています。

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一方、良いサイクルは、「関係の質(関係性の質)」からスタートします。
まずは、相互理解を深め、お互いを尊重し「関係性」を高めます。そこから、一緒に考えて、気づきや学びが共有され、面白くなっていき「思考の質」が高まっていきます。その過程で、当事者意識も醸成されていくので、自分で考え、自発的にチャレンジ・行動するようになり、「行動の質」が向上します。すると、チャレンジが多くなることで、成功確度が上がり、成果・結果が得られ「結果の質」は向上。信頼関係が高まり、「関係の質」がさらに向上し、もっと良いアイデアがたくさん生まれる・・・。といった、良いサイクルがぐるんぐるんと回り続けていきます。

つまりは、結果(数字)を出すためにも、「関係性の質」を高めていくことが必要であり、実は近道、ということではないでしょうか。

「うんうん。組織もチームも関係性だよねぇ」と思っていただいたところで、次は関係性とは何で、具体的には何をすればいいのか、というところを深めていきたいと思います。

↓ダニエル・キム教授の論文はこちら

thesystemsthinker.com

 

関係性を高めて、新しい変革を実現し、生産性を高めるための方法

ここからは、最新の面白い研究についてご紹介したいと思います。MIT教授で、MITメディアラボの創設に関わり、ビッグデータ研究の第一人者で起業家のアレックス・ペントランド氏が行った「社会物理学」の研究です。

ペントランド教授は、「ソシオメトリック・バッヂ」という胸のあたりに装着するセンサーをつくり、声の特徴や身体の動き、相手との位置関係など、1分間に100ものデータを収集し、計測できるようにしました。こうして何年にもわたり、膨大なデータを用いて人々のコミュニケーションを分析した結果、わかってきたことがあります。

そのことは、『ソーシャル物理学(草思社)』という書籍に書いてあるので、そこから引用していますが、本書に「探求」と書いている言葉は、このブログでは「探索(Exploration)」に変更して記載しています。また、この後よく出てくる「アイデアの流れ」とは、「望ましい状態を生み出すための戦略や仕組みが、ソーシャルネットワークを通じて伝播してくこと」と本では説明しています。ちなみに私は、「有益な情報が流れていくのね」というざっくりとした理解をしています。

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

 

 

この聞き慣れない「アイデアの流れ」についてなのですが、その大切さについてペントランド教授はこう語っています。

こうしたソシオメトリック・バッヂからデータを分析して明らかになったのは、アイデアの流れのパターンそれ自体が、他のあらゆる要素よりも、集団のパフォーマンスに大きく影響しているという点である。
<中略>
個人の知性や個性、スキル、その他さまざまな要素が束になっても、アイデアの流れのパターンにはかなわないのである。

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.112

 

あと、ペントランド教授は、「アイデアの流れを促進する上で、周囲の人々との接触が、他のどのような要素よりも重要である」と言っています。それは、私達が周囲にいる人たちの行動(規範を示すような一連の行動)に受ける影響の大きさを表しています。無意識にも、私達は、個人として自分自身の経験から学ぶよりも、周囲の行動に倣った方がずっと効率的だということを知っているのです。周りから影響を受けるということは、自分も模範になるような行動を示せば、周囲におのずと影響を及ぼしていくことになります。つまり「背中を見せる」ことが大切ということですね。

ペントランド教授が、複雑な環境における学習を、数学モデルにして確認したところ以下のことがわかったと言います。これも私の経験的に納得するところです。

最善の学習戦略は、エネルギーの90%を探索行為(うまく行動していると思われる人を見つけて真似する)に割くことだった。そして、残りの10%を、個人による実験と考察に費やすのが良いという結果になった。

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.71

 

最近、本業とは別に、NPOなどにプロフェッショナルボランティアとして働く「プロボノ」をやる人が増えてきていたり、キーワードとして「越境」が出てきていますが、これもペントランド教授のいう探索行為の一部なのだと思います。

さて、ここまで聞くと、「アイデアの流れや探索が重要なのはわかったから、どうやったら高いパフォーマンスが発揮できるの?」という問いが浮かぶと思います。それは、以下のように書かれています。

ウェンと私は、3つの単純なパターンが、さまざまな集団やタスクにおけるパフォーマンスのおよそ50%を決定していることを発見した。最大のパフォーマンス発揮するグループには、一般的に次のような特徴が見られる。(1)アイデアの数の多さ。数個の大きなアイデアがあるというのではなく、無数の簡単なアイデアが、多くの人々から寄せられるという傾向が見られた。(2)交流の密度の濃さ。発言と、それに対する非常に短い相づち(「いいね」「その通り」「何?」のような、1秒以下のコメント)のサイクルが継続的に行われ、アイデアの肯定や否定、コンセンサスの形成が行われている。(3)アイデアの多様性。グループ内の全員が、数々のアイデアに寄与し、それらに対する反応を表明しており、それぞれの頻度が同じ程度になっている。

うん。確かに、パフォーマンスが高いチームっぽいなぁって思うのですが、実際にはこんなにうまくいく場合だけではないよなぁ、なんて考えますよね。まさにそこについても本書で書かれてます。

そのパターンの例外は、ストレスにさらされている場合と、共同作業を行うのが難しく、感情的な反応が起きている場合とのこと。その場合、リーダーが世話人の役割を演じ、他人の会話に頻繁に介入する必要があるということです。

私、個人的には、仕事でプロジェクトを進めていると、このストレスにされされて、人間関係でトラブルが生まれ、感情的な反応が起っている出来事に出会うので、まさにここが突破すべき本丸のような気がしています。ですが、この本ではとくに触れられていないので、今回ではなく、また別でブログに書きたいと思います。

 

生産性と創造性の向上のポイント

さて、ここからは、多くの企業の課題でもある「生産性と創造性の向上」をテーマに、ペントランド教授の研究内容をご紹介したいと思います。このあたりが根拠を持って語れるところがセンサー技術とデータサイエンスの進歩だと思っています。

生産性を左右する最も重要な要素は、従業員同士が交流に費やした時間の合計と、エンゲージメントのレベル(職場の輪に皆が参加しているか)であることが判明した。この2つを組み合わせるだけで、金額換算された生産性の変動の3分の1を予測することができたのである。

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.117

 

分析の結果、生産性を左右する中心的な要素は、エンゲージメントの程度であることが判明した。エンゲージメントとは、共に仕事をするグループ内におけるアイデアの流れの速さであることを思いだそう。この研究においてエンゲージメントは、従業員が話しかけた複数の相手のそれぞれがさらに互いに話をしているかどうかの度合いから算出された。そして雇用期間や性別といった要素を調整すると、エンゲージメントの程度が高い上位3分の1の従業員は、一般的な授業員と比べて10パーセント以上生産性が高いという結果が得られた

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.119

 

"ネットワークの形状の変化のバリエーションが豊かなチームほど、創造的な活動の成果に対する自己評価が高いという結果が得られた。言い換えれば、ソーシャルネットワーク内で、探索とエンゲージメントが交互に繰り返されるパターンが見られるほど、創造的な活動で良い結果が出る(少なくともネットワーク内にいる人々からそう評価される)のである。
<中略>
KEYSのデータを分析した結果、創造性が高かった日ほど、より多くの探索とエンゲージメントが行われていたことが判明した。実際、単に探索とエンゲージメントの測定を組み合わせるだけで、どの日に最も創造性が高かったかを87.5パーセントの精度で予測できたのである。"

アレックス・ペントランド(2015)『ソーシャル物理学』p.125

 

以上のことを図にするとこういうことです。

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そして、これに近いことは、経営学の視点から他の書籍でも書かれていたので、ご紹介したいと思います。

弱いつながりの人間関係を多く持つ研究員のほうが、創造性スコアが高くなったのです。他方で、「付き合いの長さ」で測った強いつながりの人間関係を多く持つ人は、むしろ創造性が落ちるという結果となりました。"

入山章栄(2015)『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』p.99

 

「知の知の新しい組み合わせ」すなわち、前々章で述べた知の探索のためには、「幅広い人々からの多様な情報が効率的に流れる」ネットワーク上にいるほうが有利です"

入山章栄(2015)『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』p.98


あと、この本では、「イノベーション」という文脈でいろいろな研究が書かれていたので、少しだけ紹介したいと思います。

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

 

 

イノベーションとは「両利き経営」

世界の経営学で最も研究されているイノベーション理論の基礎「Ambidexterity」は、言うなれば「両利き経営」で、まるで右手と左手が上手に使える人のように、「知の探索」と「知の深化」について高い次元でバランスを取る経営を示すそうです。

「探索した知」の活用方法の第一歩は、情報の共有化で、最先端の組織学習研究で重視されているのが、「トランザクティブ・メモリー」という以下の考え方です。

「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが『ほかのメンバーの誰が何を知っているのか』を知っておくこと」であるというものです。

入山章栄(2015)『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』p.113

 

トランザクティブ・メモリーが、グループのパフォーマンスを高めるのですが、効果的な方法は、「直接対話によるコミュニケーション」です。顔の表情や目、身振り手振りなど言語を超えたコミュニケーションの重要性が証明されています。

あと、この本には、イノベーションは、「両利き経営」で、「知の探索」と「知の深化」の両方が必要だと繰り返し出てきます。弱いネットワークで、知の探索だけでなく、それを持ち帰り社内でぐぐっとプロダクトやサービスを深めていく人やチームも必要なるということです。

以上のように、様々な研究・実験結果をご紹介しましたが、結論を端的に示せば、「多様な組織・チームの関係性を高めて、外から知を持ち寄り、直接の対話で深めていけば、生産性が高まり、イノベーションは生まれやすくなる」ということではないかと思います。これは文頭でも書いたことと同じですが、実験結果などを見てみると、深まり方と、取り組む意欲などが変わるのではないかなぁと思います。

少しでも何かお役に立てれば嬉しいです。

次回は、「多様性」や今回の記事に出てきていた「チーム内でのコンフリクトやわかりあえない状況になった時にどうするのか?」というあたりにも触れていきたいと思っています。

 

ではでは~。

 

 PS.

今回は、チーム・組織のつながりや関係性について書きましたが、「個人としてのつながりや関係性は、どう幸せや健康に影響するのか?」という視点でもブログ記事を書いていますので、合わせて読んでもらえるといいかもしれません。

matsuura.hateblo.jp