松の盆栽

松浦 貴昌のパーソナルブログ

「誰に合わせて授業するのか?」が難しい学校の現状と“ふきこぼれ”問題

今年、公立の小学校の教育実習をして、これは本当に難しい課題だ、と感じたことがあります。

それは、「誰に合わせて授業をするのか?」ということです。

 

今、公立の小学校は本当に多様な子ども達が一つの教室で学んでいます。1~2割の子ども達は、発達障害があったり、グレーゾーンの子ども達と言われています。こういった子達の中には、ただ椅子に座っていることが困難な子もいます。(昔の私です)

一方で、中学校から受験して、私学に行こうと進学系の塾に通っている子ども達も一定数います。この達は、学校よりも進んでいて、高度な勉強を塾でやっていたりします。習い事も多く、ピアノ、水泳などをやっていて、週に5~6日は習い事をやっている、なんて子も少なくありません。

その他にも外国籍やルーツのある子がいたり、とにかくいろいろな子達がいます。そんな多様な子達がいる中で、「誰に合わせて授業をするのか?」ということの問題提起と私が体験した現場感を共有できたらと思っています。

 

そのことを、たまたま、最近読んだ二冊の本がその問題を指摘していました。
 

一つは、『日本人なら知っておきたい 2020教育改革のキモ』という書籍で、フジテレビ「ホウドウキョク」というインターネットテレビの教育コーナーを書籍化したものです。 

日本人なら知っておきたい 2020教育改革のキモ

日本人なら知っておきたい 2020教育改革のキモ

  • 作者: フジテレビ「ホウドウキョク」
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/10/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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その書籍の序文でコメンテーターの鈴木款さんが仰っていることです。

長男の話でショックを受けたのは、学校と学習塾の授業レベルの差が大きいため、学校の授業中は退屈で寝ている子がたくさんいるという一言でした。

 

学習塾に通う生徒たちの間では、学校には遊びに行き、勉強は塾でするというのが一般的になっていたのです。

フジテレビ「ホウドウキョク」(2016)『2020教育改革のキモ』p.17 

 

この問題のことを「ふきこぼれ」というそうです。昔から授業についていけない学力の低い児童のことを「落ちこぼれ」と呼びました。私もこちら側の人間でした。一方で、今は、学力の高い児童で授業レベルが低いためにドロップアウトすることを、鍋から吹きこぼれるイメージから「ふきこぼれ」というのだそうです。

 

このことは、ちきりんさんの『自分の時間を取り戻そう』という書籍でも触れられていました。

自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方

自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方

 

 

時間もお金も有限かつ貴重なので、十分に報われると思えることに使いたい=お金や時間の生産性を最大限に高めたい。そう考えたとき、学びの場として今の学校の生産性はあまりにも低く見えます。


最大の理由は、個々人の理解レベルにまったく合わないペースで教えられているからでしょう。最低でも30人の生徒がいる教室では、一番よくわかっている子も一番わかっていない子も、自分の時間を有効活用できていません。


おそらく時間が有効活用できているのは、真ん中の10人ほどではないでしょうか。しかもその10人も、英語の授業時間は有効活用できているけれど、物理の授業ではまったく無駄に人生の時間を使っていたりするのです。

ちきりん(2016)『自分の時間を取り戻そう』p.35 

 

鈴木さんもちきりんさんも、それぞれイメージしている年代が違いそうですが、私が今年教育実習を経験した東京都内の公立の小学4年生のクラスでも同じことが起こっていました。


そのクラスも30名ちょっとくらいで、大きくは3つくらいの層に分けられます。一つは、授業の内容になかなかついていけない層。そしてもう一つは、進学系の塾に行っていて、授業内容よりももっと難しい問題が解け、塾で先に進んでしまっている層。そして、どちらにも入らない、進学系の塾は行っていなくて、学校の進み具合に合わせて学習を進行させている層。おそらくこの層が一番多いでしょう。


例えば、算数の計算問題をいくつか解くことを指示したとします。時間は全体で20分くらいを想定するくらいの分量。「はじめ~」の声と共に、まず3分で全ての問題が終わる子達がいます。そして、20分経っても終わらない子達もいます。これは実際に私が体験したことです。3分で終わった子達は本を読むなど、思い思いの過ごし方をしていました。先生は、苦手な子を中心に回って教えます。そのうちに、20分くらい経過し、8~9割くらいの児童が終わったあたりで、先生の答え合わせが始まるといった感じです。できていない1~2割の子は待ってもらえません。


これが私の体験した厳しい現実でした。そして、私自身、この時には、誰にとっても良いと思える方法が思い当たりませんでした。おそらく、一般的な公立小学校の先生が日々直面している難しい現実のように思います。(先生達はできる限りフォローしていると思いますが)


できる子には、簡単すぎて退屈で、できない子には難しすぎて、完全習得までいかずに理解できないままになってしまう現実。また、できる子は、先生からは放っておかれる事が多くなります。できない子は、勉強に苦手意識を持ったままになってしまいます。とくに算数は深刻で、一つわからなくなると、先の問題はほとんど発展させたものなので、それ以降もほとんどわからないという状態が続くことになってしまいます。


現在では、算数の少人数学級や追級指導など、落ちこぼれがでないよう対策が打たれていますが、それでも多くの学校でまだまだ足りていないのが現状ではないかと個人的には思います。

 

では、ふきこぼれ問題はどうでしょう。一般的に勉強できる子は優等生のイメージがあり、「いい子」で、ドラえもんのキャラでいうと出木杉くんを思い浮かべるのではないでしょうか。実際には、そういう子もいます。しかし、一方でそうではない子もいて、家ではいい子を演じていて、その抑圧を解放しようと学校では暴れてしまう子もいます。 授業が簡単すぎると、教室を出てしまう子もいます。塾でランク付けがされ、塾仲間からは見下されているので、学校では自分が他の児童を見下している子もいます。これらも実際に実習先の教室で目の当たりにした現状です。

 

では、どうすれば、いいのか?

本当は、考え続けながら、一つひとつの問題に向き合っていくことだと思っていますが、それで終わってしまうので、現状でできる事の一つとしては、「学び合いの授業」を導入することがあると思います。これは、児童・生徒同士で、わかっている人がわからない人を教えたりと、お互いに教え学びあい、サポートしあうことを重視した授業のやり方です。この学び合いの授業は、上越教育大学の西川 純教授が、多くの書籍を出されています。

クラスが元気になる! 『学び合い』スタートブック

クラスが元気になる! 『学び合い』スタートブック

 

 

この授業のやり方は、クラスの結束も強くし、関係性もよくするので、とても有効なことだと思います。一方で指導法としての難易度も高いので、できる教師が限られるのが今の現状だと思います。(教職課程では具体的には扱いませんでした)

 

そういった学び合いなどの授業を取り入れたり、先生の授業力そのものをアップするためにも、まずは、先生の校務などの事務作業を削減し、授業の準備や教材研究、指導力のアップに使える時間を増やす教育政策が必要なのではないかと思います。

 

そして、もう一つ、難易度は高いですが、やると効果がでるだろう施策としては、1学級の人数を大幅に減らすことです。現在、都市部では、30人~40人のクラスがほとんどです。その30人以上もの子ども達を一人の先生で丁寧に見ることはとても困難です。そこで、思い切って15人以下にするのが良い方法だと思っています。海外の学校では、これくらいの少人数でやっているところも多くありますし、15人以下にしたときに、授業の理解度や答えの正答率があがる研究結果もあります。(「グラス・スミス曲線」や「スタープロジェクト」が有名)


社会人がプロジェクトを行う上で、最適なチーム人数は8人だという話を聞いたこともあります。ミーティングでも12名を超えたくらいから集中力が散漫になったり、当事者意識が減るということも。やはり双方向で密度を重視していくなら少人数の方向なのだろうと思います。

 

教育は、その一人ひとりのおかれている状況や個性、これまでの背景やポテンシャルなどにもあわせて授業することが大切だと思うので、究極的には一対一になるのだと思います。ただ、多様な複数人で学ぶメリットも授業の広がりなどを考えても多くあるので、10人~15人くらいがちょうど良いのではないでしょうか。(実際に「東京コミュニティスクール」はこの規模で初等教育を実施しています)

 

と書いてはいますが、この学級の人数を減らすことは、かなりハードルが高い施策でしょう。財務省は現在、子どもの人数が少子化で減るのだから、それにあわせて先生の人数を減らしましょう、と言っているからです。もちろん文科省はそれに反対しています。現在、先生を減らすことに抵抗している状況ですので、学級の人数を減らすということは、先生を増やすということになるので、とても難しい問題だということがわかります。

 

ここまで読んだ方の中には、これまでも現在のような大人数の形式で授業をやってきたのだから、これからもそれで良いのではないかと思う方もいるでしょう。ただ、これまでの時代はそれで良かったからもしれませんが、これからの今の子ども達が大人になり社会に出てくる時代には、そうも言っていられないのではないかと思っています。

 

「今の子供たちの 65%は、大学卒業時に、今は存在していない職業に就く」「今後 10~20 年で、雇用者の約 47%の仕事が自動化される」といった研究発表がされています。

 

これからのAI時代の未来を考えると、これまでの暗記中心の大人数の一斉授業では、未来の社会で生き抜く力はつきにくいだろうと思います。次期学習指導要領の載るアクティブラーニング型授業や学び合いの授業などで、答えのない課題に対して自分の頭で主体的に考え、仲間と協力しあい、試行錯誤を繰り返すような経験を積んでいく必要があるのだと思います。

 

今回記事で書いた、多様な子ども達にどのような授業をしていくのが良いのか、というも問題は、これからも残り続けると思います。特効薬はないにしろ、公立の学校現場の現状の一つとしても知ってもらえたらと書いてみました。また、先生って難しく、大変だなぁと思ってもらい、先生へのサポートが増えていくといいなぁと思っています。

 

そして、今は学校に全く関わっていない人でも、教育に関心を持つ人が増えて、教育政策を意識して選挙の投票に行ってもらえると、教育改革の後押しになり、少しずつでもより良く変化していくのではないかと思っています。

 

これからの社会を生きる全ての人が、教育の当事者だと思っています。

 

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